二つの「にじ」(にじ 2016年 夏号 No.654 オピニオン)
二つの「にじ」
大高 研道
にじ 2016年 夏号 No.654
「わたしは雲の中にわたしの虹を置く。これはわたしと大地の間に立てた契約のしるしとなる。(中略)水が洪水となって肉なるものをすべて滅ぼすことは決してない。雲の中に虹が現れると、わたしはそれを見て、神と地上のすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた永遠の契約に心を留める」(『聖書(新共同訳)』「創世記」第9章13-16節)。
これは旧約聖書にある「ノアの箱舟」のお話の一部です。大洪水のあと、私たちが互いに助け合い、平和を求める姿を嘉するものとして神があらわしたのが「虹」でした。協同組合の理想を表すシンボルとしての虹もこの物語に由来しています。
皆さんは平和と協同を象徴する虹の七色には、それぞれ特別な意味が込められていることをご存知でしょうか。「赤」は勇気、「橙」は先見性、「黄」は挑戦、「緑」は多くの仲間を増やし、協同の目的と価値を共有するための協同組合人の役割の発揮、「青」は教育機会の提供、困難を抱えた人びとの支援、世界中の人びととの連帯といった広い視野からその存在や役割を見つめることの大切さ、「藍」は協同による自助を真に必要としている多くの困難を抱えた人びとの存在への気づき、そして「紫」は思いやりや友情を象徴しています。
私は、この虹は、協同組合の特徴を示すシンボルというよりは、「成就することなき完全性」を希求する先人たちの思いを表したものではないかと考えています。
国際協同組合同盟(ICA)において虹の旗が協同組合のシンボルとして提案されたのは、第一次世界大戦後の1921年に開催されたバーゼル大会のことでした(公式には1924年に採択)。その背景には、互いに武器を取り争った苦い経験と反省があります。つまり、さまざまな葛藤や協同の矛盾に直面しながらも、「そうありたい」姿への思 いを虹というシンボルに込めたのではないでしょうか。
ところで、虹をよく見ると、その外側に一回り大きい副虹(霓)がうっすらと見えることがあります。色の配列は虹とは逆で、内側が赤色をしています。私は、ともすると見落とされがちな「霓」こそが、多くの人びとの見えない思いや苦労の上に成り立っているさまざまな協同の営みを表しているような気がしています。