JCAについて

〈中家徹会長・土屋敏夫副会長対談〉コロナ時代における協同組合の役割と JCAへの期待について

 このほど、中家徹JCA会長(JA全中会長)と、新たにJCA副会長に就任した土屋敏夫副会長(日本生協連会長)の対談が行われました。JCAの比嘉専務理事がファシリテーターを務め、コロナ時代における協同組合の役割とJCAへの期待について語り合いました。

(左から)JCA土屋敏夫副会長(日本生協連会長)・JCA中家徹会長(JA全中会長)・JCA比嘉専務

 

比嘉――新型コロナウイルス感染症の拡大は未曾有の事態を引き起こしています。今年の国際協同組合デーのスローガンは「協同組合は、力を合わせて、コロナ後の社会の再建に貢献します」でした。世界中の協同組合が、コロナ禍の危機に対し連携と強靭さをもって立ち向かうことが求められます。

 本日は、新たに日本生協連会長に就任された土屋会長、そしてJA全中の中家会長にコロナ時代、SDGs時代における協同組合の役割やJCAへの期待などお話しを頂きます。

 まず、土屋会長より、自己紹介をお願いします。

 

土屋副会長  大学卒業後、都民生協(現在のコープみらい)に1982年に職を求めて、店舗など共同購入の現場から商品部など本部での業務をいろいろ経験しまた。

 日本生協連は今年70周年ということで、改めて生協の歴史、消費者運動の歴史というものをしっかりと学んですすんでいきたいと思います。戦前の米騒動、戦後の食料不足や貧困……など苦しい生活情勢のなかで生まれ、またその後の高度成長のなかでも、いかなる苦しい状況でも消費者のニーズに寄り添ってぶれずに頑張ってきました。これからも、その精神を受け継いで、現在の課題である持続可能性を裏付ける新しい社会システムへの模索などに、消費者とともにすすんでいければ、と思っています。

 

比嘉――中家会長、自己紹介をお願いいたします。

 

中家会長  私は、和歌山の果樹専業農家の長男として生まれました。農家の長男=跡継ぎという意識もあり、高校卒業後、農業に就こうか父親に相談したところ、農家の組織である農協で学んではどうかと言ってもらえたので、1年間地元JAで働き、その後、JA全中が開校した中央協同組合学園の第1期生として入学しました。そこで学び、はじめて協同組合理念の素晴らしさを知りました。やはり協同組合運動は現場にある、ということで中央協同組合学園卒業後に地元の紀南農協(現在のJA紀南)の職員として働くこととなりました。

 

比嘉――コロナ禍においても生協グループでは、若年層などの宅配利用者の増大による供給高の上昇がみられます。コロナ禍における特徴的な取り組み、ご自身のエピソードや思い、コロナ禍での地域における協同組合の役割についてどう考えるか、今後取り組みたいこと、力を入れたいことなどをお願いいたします。

JCA土屋敏夫副会長(日本生協連会長)

土屋副会長  コロナ禍が広がり始めた段階では、外出規制による内食化傾向・巣ごもり需要がすごい勢いでしたし、学校が休校になった影響が大きくて、スーパーや宅配の需要がかなり大きくなりました。生協では、店舗の供給高が前年度比106%、宅配が116%という伸長率でした。一方で生協の宅配事業というのは効率性を重視しており、受注から配達まで決まった枠のなかで動いています。そのため、急激な注文増加にはなかなか対応しきれない部分がありました。商品を抽選にしたり、ひとり1個というふうに制限したり、新規加入の組合員さんに利用開始をお待ちいただいたり、とご迷惑かけてしまいました。また、取引先や生産者の皆様にもご迷惑をおかけしてしまいました。我々自身の仕組みの良さと同時に弱さを実感しました。そして、供給責任、食を枯らさないという責任の重みを痛感しました。そうした状況を受けて、物流を改善したり人を増やしたりと対応していって仕事のできる幅を増やして、秋には配達ができるようになっていったわけですが、その間、当初のお叱りを経てたくさんの「ありがとう」を組合員の皆様からいただくことができました。感謝という組合員・消費者の思いが伝えられることで、職員はほんとうに励みになりました。

 

比嘉――一時的な混乱もありましたが、JAグループでは、「国消国産」をキーワードにフードサプライチェーンを保ち、国民の皆様への安定供給に尽力しました。コロナ禍でどんな変化がありましたでしょうか。

JCA中家徹会長(JA全中会長)

中家会長  学校の休校や外出自粛・イベント中止、インバウンド需要の減少など農産物の需要にも大きな変化がありました。それに労働力では外国人実習生に頼る部分も大きいので、彼らが入国できなくなって労働力不足に陥りました。また、JA厚生連病院もコロナ患者の受入れなどご苦労をいただいています。また、このコロナ禍の1年半で、座談会等を含めた集会やイベントができない状況は、協同組合運動というもののなかで、ものすごく影響が大きいと感じます。組合員との接点というのは協同組合の原理原則です。

「1年くらい集会やイベントをやらなくてもどうということはない」というような意識がひょっとしたらJAのほうにもあるかもしれないし、組合員のほうにもあるのではないか。組合員の立場からみたときに「別にわざわざ行かなくてもいいんじゃないか」という気持ちになっているのではないかと。これに大変な危機感を感じているわけです。

 一方、コロナ禍のなかで、「農業」・「農村」・「協同組合」に関して3つの教訓がありました。

「農業」への教訓は、さきほど土屋会長のお話のように、我々JAの立場からすると、国民の皆様に食料を安定的に供給するという大きな使命です。日本農業そのものについて見ると、食料自給率は低迷し、生産基盤は弱体化し、食料安全保障という視点からすると、非常にリスクが高い。コロナ禍によって世界的にみると19か国は食料の輸出をストップしました。こうした認識から、我々は「国消国産」という考え方を大々的に発信して、皆様方にご理解いただけるよう取り組んでいるところです。  

2つ目の「農村」へ教訓というのは、東京一極集中に対する是正です。東京というのはまさに三密社会で、それを回避するための地方分散型社会にしていこうという機運がぐっと高まっています。

そして3つ目の「協同組合」への教訓は、助け合う心、相互扶助といった部分がコロナを契機にだんだん理解されだしたのではないか、ということです。

 

土屋副会長      生協でも組合員や産地との交流がコロナ禍によりできなくなりました。その後、リモートで再開したけれども、現場に行って直に交流したいものです。

 

中家会長  現場の実態をまずわかってもらうこと。それがあるのと、無くてはじめてお客さんに接するのとでは全く違います。私の地元JAでも生協との交流がありますが、はじめて現場に行って驚く人も多いのです。「いやあ、ミカンってあんなにキズができるのですか」と生産現場に来て驚いていた人がいた。その人は店頭に並んでいるきれいなミカンばかりが樹に実っていると思っていたわけです。百聞は一見にしかず。やはり産地と消費者の交流というのも大事だと思います。

JCA比嘉専務

比嘉――協同組合の活動とSDGsの取り組みについてグループでの特徴的な取り組み、役割などご紹介いただければと思います。目標とする2030年までの残り10年間を国連は「行動の10年」と位置付けています。地域での事例など、協同組合間連携によるSDGsへの取り組みや、今後、力を入れていく点など、ご紹介ください。

 

土屋副会長  全国の生協では、さまざまな環境や持続可能な社会づくりへの取組を進めてきました。2018年にコープSDGs行動宣言を総会で採択しました。環境や持続可能な社会づくりへのさまざまな取組を引き継いて、さらにギアーを入れてSDGsという課題に沿ったかたちでさらにアクセルを踏むというもので、その具体化として「生協の2030・環境サステナビリティ政策」という10の行動指針をまとめました。エシカル消費ということで、環境負荷に配慮した商品を利用するという取り組みや、しっかりと裏付けあるかたちで温室効果ガス削減の目標である40%削減を目指していく。それから使い捨てプラスティックの25%削減とか、食品廃棄物の削減などを掲げています。エシカル消費のコープ商品としましては、コープサステナブルとしてブランド化して、商品にマークをつけて消費者にわかりやすくしています。

SDGsの課題の中でも重要なものは貧困問題、飢餓をなくすということ。食料へのアクセスが国際関係の緊張のなかで阻害される可能性というのは常にありますし、今回のコロナのときも、コンテナ不足や港湾業務の遅延など物流問題などもありました。流通の目詰まりなどの複合的な要因で、長期的にも食料危機の不安はぬぐえませんし、瞬間的にはかなり厳しいことも想定できる。消費者も理解して一緒に勉強していくということが、まさに今SDGsで大事なことです。

 

中家会長  SDGsへの取組は、生協グループがかなり早く進められています。我々は去年の5月に『JA グループ SDGs 取組方針』を決めて取り組んでいます。SDGsへの取組は「食」という部分への大きな役割があります。農林水産省が「みどりの食料システム戦略」として、SDGsやカーボンニュートラル等への対応に向けての取り組みを策定していますが、なかなか現場との乖離が大きいのでそれをどう埋めていくのかが大変です。基本的にわれわれにはJA綱領というバイブルがあって、それに忠実に取り組むことがすなわちSDGsへの取り組みになるのではないか、と捉えていますが、我々も生協とともに意識を高めて、積極的に発信していかなければならないと思って頑張っております。

 

比嘉――コロナへの対応やSDGsでも、JAも生協も地域を基盤とし、地域を支えていることがよく分かります。JCAが発足した背景にも、それぞれの協同組合が長年にわたり地域を支えており、そうであるなら、協同組合間の連携を広げ、深めることで、地域において大きな役割が果たせるという問題意識がありました。

 

土屋副会長  「日本の生協の2030年ビジョン」に「つながる力で未来をつくる」というフレーズがありますが、誰もが安心して暮らせる地域社会というのは、まさにJAと生協の協力が不可欠で、力を合わせて進めていくものであると思います。暮らしの基本は食です。この間、大学生がコロナでアルバイトができなくて生活が困っているというときに、JAがお米を、我々がおかずを提供したということがありました。給食の牛乳が売れないというときに我々が消費者につないでいくということなどもありました。

 このコロナ禍のなか、「国消国産」のように消費者の国内の食品を買いたいというニーズや、軸は違うけどオーガニックを求めるという消費者の意識も高まってきています。政府が「みどりの食料システム戦略」で食と農の構造を大きく変えるのであれば、変えるなりの重要な議論を、JAと生協で、一緒に真剣にしっかり勉強していくということが必要だと思いますね。JCA(日本協同組合連携機構)をプラットフォームとした各協同組合との連携といった軸を改めて発展させていきたいですね。

 

中家会長  わたしも組合長時代に何回か生協と取引をしたのですが、ひとつ驚いたのは、生協の安全安心な食料を組合員に提供する、という使命感ですね。その分、産地にはものすごく厳しい側面もあります(笑)。組合員のため、消費者のために徹底的に「産地には要求しますよ、しかし約束は守りますよ」という姿勢がブレない。これがとてもありがたいわけですね。

 生協グループには3000万人近い組合員がいらっしゃいます。こういう方々がみんな「国消国産」という認識になれば、すごい力になると思うのです。

「みどりの食料システム戦略」の実現に向けては、もちろん農家の意識も変わる必要がありますが、最終的に消費者のみなさんがモノの価値に加えて環境への貢献というプラスアルファの価値を持つことが真の価値であるという認識になっていくことが必要です。環境に配慮した農業をすすめていくには消費者の方々にも理解を求めていくことが必要なのではないでしょうか。土屋会長もおっしゃるように、同じ協同組合として、共通してやらなければならないことはたくさんあるのですから、それをお互いが見出して、それぞれの地域に合ったやり方・連携というものを具体的に実践できたらなと思います。

(対談は、2021年7月13日、JA全中会議室で行われました)