韓国「一社一村運動」に学ぶ(にじ 2015年 夏号 No.650 オピニオン)
韓国「一社一村運動」に学ぶ
秋葉 武
にじ 2015年 夏号 No.650
韓国は1997年、(アジア通貨危機をきっかけとする)「IMF金融危機」にさらされた。「朝鮮戦争以来最大の国難」といわれた危機の中でグローバル化の道を突き進み外国企業や一部財閥企業の優遇、FTAの推進といった「経済成長路線」を進めてきた。
その代償としての社会的な「痛み」は苛烈なものだった。(日本の「格差」に相当する)「両極化」はここ10年に渡る韓国最大の社会的、政治的なテーマである。ワーキングプアといった「新貧困層」の増加、都市と農村の格差の拡大といった現象は日本と似ているが、韓国はそれが急速に進んだところに特徴がある。
日本と異なるのは、財閥企業をはじめとする経済界の農村、農家への認識である。「グローバル化によって我々企業が恩恵を受けたのだから、不利を蒙る農村を支援する責務がある」という認識が根付いている。韓国の農協は正組合員を准組合員が大きく上回るが、日本と異なり「准組合員問題」は存在しない。都市部の人々、産業界が農協、農村を支えるという国民的な含意があるからだ。
こうしたなか、04年、(日本の経団連に相当する)全国経済人連合会と農協中央会などによって「一社一村運動」が始まり、韓国農村に広く定着している。「一つの企業が一つの農村を支援する」という考え方にもとづいて、例えばA社とB村が姉妹提携を結ぶ。A社はB村に対して、農作業支援、農産物購入、企業ノウハウを用いたマーケティング支援などを行う。日本では都市の生協が農村と産直提携を展開してきたが、韓国はそれを大手企業が実施することに特徴がある。
一社一村運動は双方にメリットがあるため拡大してきた。つまり、企業は農作業支援を通した社員・家族の福利厚生の向上、高品質な農産物の購入が可能となる。農村はITやマーケティング、広報の支援を受けることで、適正な価格での農産物の販売が可能となり所得の向上につながっている。
日本でも農村と大手企業の間にもっと早い時期からこうした動きが定着していれば、農村やJAに対する見方も変わっていたのではと考えるのは甘過ぎるだろうか。なお、韓国の一社一村運動は日本の静岡県で09年から模倣されている。