ミュンクナー名誉教授を偲んで
【昨年11月22日に逝去されたドイツの協同組合研究者ミュンクナー氏に対して、生前親交の深かったJCA特別研究員の栗本昭が、以下の追悼文を発表しました。】
ドイツ・マールブルク大学のミュンクナー名誉教授が昨年11月22日に逝去されました。享年88歳でした。ミュンクナー氏は1980年代から筆者のメンターであり,友人として交流してきました。氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
ミュンクナー氏はしばしば自らを協同組合原理主義者と呼んでいましたが,その視野は世界に広がっていました。イギリス帝国が植民地インドに与えた信用協同組合法(1904年)はトップダウンによる協同組合開発方式を導入し,これが発展途上国の協同組合法のプロトタイプになりましたが,ミュンクナー氏はこれを「イギリス・インド協同組合パターン」と名付けました。2004年に法制定100周年を記念してマールブルクでコロキアムを主宰し,その成果を書籍にまとめました。
ミュンクナー氏はマールブルク大学で多くの発展途上国の留学生の指導にあたりました。また,アジア・アフリカの多くの国で協同組合の制定や改定にコンサルタントとして関わってきました。フランス生まれの社会的経済については理論的根拠の曖昧さ,政治的な含意について批判的な論陣を張ってきましたが,晩年はアプローチとしては認めるという立場に転換しました。
2012年の国際協同組合年に開かれたベネチア会議ではミュンクナー氏は「世界における協同組合法の概観」と題する論文を発表しました。ミュンクナー氏は英語,フランス語にも堪能で,彼がカトリーヌ・ヴェルナス氏とともにスイスのミグロ生協連合会の財政的支援を得て編集した英語・独語・西語の『注釈付き協同組合用語集』(2010年)は広く活用されています。
協同組合の価値と原則についてもミュンクナー氏はベーク委員会,マクファーソン委員会の中核メンバーとして大きな貢献を果たしました。ミュンクナー氏の『協同組合原則と協同組合法』(1973年)は9か国語に翻訳された古典で,アジアやアフリカの新興独立国に焦点を当て,各国の協同組合法の改善に資することを目的としていました。また,2015年には旧版発行後の各国の協同組合法の展開とILO193号勧告を踏まえて改訂第2版を出版しました。
日本との関係では、協同組合と協同組合法に大きな関心を持ち,たびたび訪日し講演をしていただきました。生協総研とは1994年の国際シンポジウムで「協同組合原則の改定と21世紀における協同組合の役割」と題する講演,1999年の創立10周年に際して祝辞をいただき,またドイツの協同組合法やガバナンスの問題に関してたびたび寄稿していただきました。2001年の国際ボランティア年を記念して神戸で開催された国際フォーラムでは「成熟社会におけるボランタリーセクターの形成に向けて」と題する基調講演,2003年には日本協同組合学会で特別講演をいただきました。日本の生協法の員外利用禁止規定についてミュンクナー氏は好意的に評価していましたが,この点に関しては筆者は同意できませんでした。2016年には韓国開発研究院(KDI)によるドイツ,日本と韓国の協同組合についての比較研究が行われましたが,ミュンクナー氏と筆者が参加しました。
ミュンクナー氏の業績については2012年の国際協同組合学会ウィーン大会において詳しく紹介されましたが,ここではWikipediaによる紹介を掲載します。
Wikipediaによる同氏の紹介(ドイツ語版から翻訳。2024年4月10日閲覧)
ハンス・ヘルマン・ミュンクナー(Hans-Hermann Münkner、1935年6月19日 – )は、ドイツの弁護士、教授、作家、編集者。2000年から2001年まで、マールブルク大学で国内外の会社法および協同組合法研究の教授を務め、世界有数の協同組合研究者の一人と見なされています。 ハンス-H.ミュンクナーはマールブルク、マインツ、ベルリン自由大学で法律を学び、1961年に最初の国家法学試験に合格した。1962年から1963年にかけて、協同組合と連邦政府が運営する研修プログラムにおいて、発展途上国の協同組合コンサルタントの資格を取得しました。1964年からマールブルク・フィリップス大学発展途上国協同組合研究所の助手を務め、以後、法学政治学部の講師としてアフリカ諸国の協同組合経済学者の法曹養成を任されています。 1971年、彼は博士裁判官の称号を授与されました。博士号。それ以来、彼はアフリカの協同組合法の専門家と見なされています。 1972年、ミュンクナーはマールブルクのフィリップス大学経済学部の国内および外国協同組合法の教授に任命されました。彼の研究は、発展途上国の会社法と土地法、特に協同組合法に焦点を当てています。 2000年に引退して以来、彼は国際協同組合運動の発展を監視し、コメントし続けています。
主な著作
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