お知らせ

みんなで幸せに暮らせるまちづくり~協同組合らしいケアを考える~ 第5回協同組合の地域共生フォーラムを開催

 10月14日(土)、一般社団法人 日本協同組合連携機構(第5回協同組合の地域共生フォーラム実行委員会)は「第5回協同組合の地域共生フォーラム」を開催しました。

 医療・福祉・介護といった分野を中心に開催しているこのフォーラムは、地域に根差して事業を行う協同組合が、地域の特性にあわせ、地域のつながりを広げながら、地域完結型の「ケア」をどのように創り上げているのかを事例報告やグループ交流で学び合い、参加者それぞれの地域における活動に活かしていくことを目指して2019年から開催しています。5回目となる今年のテーマは「みんなで幸せに暮らせるまちづくり~協同組合らしいケアを考える~」で、地域の参加者が対面で交流できるように初めてサテライト会場(茨城県水戸市、愛知県名古屋市)を設置し、連合会館(東京都千代田区)からサテライト会場と全国に向けてオンライン配信して開催しました(参加者は約370名)。

 ここでは、フォーラムの概要をプログラムに沿ってご紹介します。
 ※以下のタイトルをクリックするとご覧いただけます。

 

1.ビデオメッセージ

ビクトール・ペストフ氏からのビデオメッセージ

 欧州における協同組合研究の第一人者であり、「福祉のトライアングル」で著名なビクトール・ペストフ教授から日本の協同組合役職員・関係者に向けてビデオメッセージが寄せられました。

「企業や政府と異なり、日本の協同組合医療は利用者が所有する医療、すなわち『地域住民の』『地域住民による』『地域住民のための』医療であることが大きな特徴。地域住民が必要としている潜在的なサービスの提供において、日本の協同組合医療は大きな影響力を持っている」と評価。「協同組合は、特に高齢者ケアや障がい者ケアなどの社会サービスにおいて、大きな可能性を秘めている」と、今後さらに役割を発揮することへの期待とともに、「協同組合の研究や実践を自らの中心に据えることが大きなやりがいに繋がり、同時にそれは地域社会にとって有益で、日本社会全体の発展に貢献することに繋がることになる」と、日本の協同組合役職員・関係者にエールが贈られました。

 

2.フォーラムの趣旨説明

斉藤先生による趣旨説明

 第1回フォーラムから毎年参加いただいている大阪大学大学院人間科学研究科の斉藤弥生教授から、ペストフ氏のビデオメッセージの解説とともに、今回のフォーラムの趣旨説明を頂きました。

ペストフ氏が日本の協同組合を高く評価し魅せられているのは「住民と専門職(医療従事者等)が対応な関係にあり、住民は医療の主体的な利用者となっている」「利用者と専門職による『コ・プロダクション(共同生産)』の活動が協同組合医療には盛り込まれている」とその理由を解説。「本日お話しいただく4つの事例報告は、協同組合が地域の活動主体と力を合わせて新しい挑戦をしていることを感じていただけるし、今年のテーマである『みんなで幸せに暮らせるまちづくり』に向けた、多主体連携について学ぶことができる」と趣旨説明をいただきました。

 

3-1.事例報告(前半2団体)・クロストーク
(1)福井県民生協による社会参加型デイサービス
福井県民生活協同組合 執行役員福祉事業部 統括部長 蓬莱谷修久様

 2000年からスタートした介護保険制度によって各地で介護サービスが提供されるようになりました。施設と自宅を往復するだけという生活を強いられているケースが増えるなか、福井県民生活協同組合(福井県福井市)では、2020年4月から認知症対応型デイサービスを開始しました。様々な場面で「生活しにくい」という困難を抱える当事者同士が集い、その仲間とともに想いを実現する「BLG丹南」です。
 BLG丹南のBLGは、「Barriers(障害)Life(生活)Gathering(集いの場)」の頭文字をとったもので、たとえ認知症になっても、①何をしたいか自分で決める、②自分の役割を見つける、③なかまと感情を共有する、の3つのマインドを活動の根本に置き、「働く」という活動を通じて、地域、社会、仲間とつながることができ、居心地のよいコミュニティを作ろう、という想いがこのBLGに込められています。
 地域の企業等と連携して、例えば商品の検品、洗車、ズボンの裾直し、買い物代行といった活動に取り組んでいますが、メンバーの想いに耳を傾け、それをカタチ(活動)にしていることで「自分にもできる仕事があった」「みんなで協力し合える場所。骨を埋める気概でやっている」といった声がメンバーから上がっています。
 「仕事を依頼してくれる企業との連携をどんどん広げていきたい。しかし、広げることだけを目的とするのではなく、サービスを利用するメンバーの想いを実現することを最優先にしていきたい」「認知症に対して正しく理解してもらい、仕事を依頼したいと言ってくれる企業を増やすことが今後の課題」「大切なことは、認知症、病気、障がいを地域社会から隔てているモノ・コトを開放すること」と述べ、これからもBLGに根差したサービスをメンバーと一緒にチャレンジしていく意気込みが語られました。

 

(2)家事サポートを通じた地域課題の解決
労働者協同組合ワーカーズ・コレクティブLavori 理事長 五十嵐仁美様

 2017年に設立され、2022年に労働者協同組合法人格を取得した労働者協同組合ワーカーズ・コレクティブLavori(神奈川県横浜市)からは、くらしサポート事業の家事代行サービスについて報告がありました。
 ワーカーズ・コレクティブLavoliは、生活協同組合「生活クラブ」の組合員が中心となって組織しており、生活クラブから事業を受託する形で、掃除、料理、片付け、買い物等の様々なサービスを提供しています。ミッションは「ひとり一人が必要としているニーズに対応して、サービスを適正な価格で提供すること」「必要なニーズをアウトリーチすること=孤立させない」。核家族化、高齢化、孤立化が進み、従来のように家族ではカバーできなくなりつつある「家事」の領域において、地域の生活クラブ組合員が有償で支える事業として展開し、人やサービスが地域で循環することで地域経済をつくり、サスティブルな地域社会づくりを目指して活動しています。
 「一人ひとりの利用者に伴走することで、利用者とサービス提供者との間で相互の成長が達成できると感じている」「この事業を生活協同組合の組合員から地域の人たちにも提供して、豊かで暮らしやすいまちづくりを目指したい」「他団体との連携は発展途上だが、今後の少子高齢化社会を見据えると、地域で仕事を束ね、公正に分配することは、協同組合の役割の一つになると考えている」として、必要性があっての事業を行う協同組合による地域社会づくりへの想いをお話しされました。

 

【クロストーク①】(敬称略)

斉藤ー働くことにこだわった活動だと感じたが、どんな想いが込められているのか?また、介護保険制度自体が重度者をターゲットにするようになった結果、家事の分野が置き去りになっていると思うが、そのあたりはどうか?

五十嵐ーLavoliはイタリア語で「働く」。ボランティアや助け合いという生活支援サービスではなく、事業継続のために「働くこと」を中心に据えている(=仕事として成立させる)。介護保険を使う前の練習として私たちのサービスを利用するケースがあるが、徐々に利用頻度が増えたり、地域の包括支援センターや県内の他のワーカーズコープにつないだりするアウトリーチのケースもある。

斉藤ー利用者と働く人との「対等な関係」について一言。

五十嵐ー「モノをもらうな」と言っている。もらってしまうと対等な関係が崩れるきっかけになったりする。私たちの活動は支援や寄り添いではなく「伴走」であり、活動を通して自分たちの生き方について利用者から学んだり考えさせられたりすることが多い。そして自分の経験を他の利用者や周囲に伝えることで、よい循環にもつながっている。

斉藤ー福井県民生協も対等を大事にしていると思う。ケアは「してあげる」と考えがちだが。

蓬莱谷ー介護職員は「何かしてあげなくては」と考えて利用者ができることまでしてしまいがちだが、そういった価値観を変えることに重きを置いて、最初の9か月間は毎日気づきを書いて定期的に話し合い、できることを奪っていないかの振り返りのトレーニングをしている。

斉藤ー地域の企業とはどうやってつながりを作ってきたのか?

蓬莱谷ー認知症サポーター養成講座等の学習機会を作ってもらい、そこで私たちの活動に関心を持ってもらえるようにしている。大きな課題は、認知症への理解が追い付いていないこと。企業の担当者が変わったとたんに「認知症の人にそんなことができるのか」「働く場を作ってあげている、ボランティアしている」といった意識に戻ってしまうので、当事者と企業との話し合いの時間を多く作ることにしている。

クロストーク(左から順に、斉藤先生、蓬莱谷様、五十嵐様)

 

3-2.事例報告(後半2団体)・クロストーク
(3)JA山梨厚生連による「がん教育」の取り組み
JA山梨厚生連 企画広報部 企画広報課 課長 志村直樹様

 学習指導要領の改訂に伴い、令和4(2022)年度までに小・中・高等学校における「がん教育」が必修化されましたが、JA山梨厚生連からは、それ以前から取り組んできた出前授業によるがん教育について報告がありました。

予防と検診の専門化として、子供のうちから生活習慣について学ぶことでがんの予防につなげ、がんの早期発見・早期治療の大切さやがん検診の意味を伝えるこのがん教育は、児童や生徒といった若年層との接点が持てる大切な機会ともなっています。

 山梨県教育庁のがん教育外部講師として、教育現場を通して子どもだけでなく家庭や地域も巻き込みながら取り組んできましたが、コロナ禍で出前授業の回数が激減。そこで、山梨県教育委員会と協議のうえ、子どもにも興味を持って学んでもらえるようにマンガを盛り込んだ情報誌『がんのはなし』を制作して、県内の小中学校やショッピングセンターなどに約25,000部を配布しました。

 「子どもたちがこの情報誌を家に持ち帰り、家庭で話題にしてくれたことで、家庭でのがん教育の浸透にもつながった」「県下の小~高校の担当教員らを集めた『がん教育指導者研修会』で取組事例を発表したところ反響が大きく、翌年度から出前授業や情報誌配布の依頼が急増した」などと、これまでの取組の成果が確実に実を結んでいるご報告をいただきました。

最後に「これからもがんに対する正しい知識を若い世代に伝え、誤解や偏見を無くし、社会全体でがんの予防や早期発見・早期治療に取り組むことを通して、みんなで幸せに暮らせるまちづくりに貢献していきたい」とお話しをまとめられました。

 

(4)みんなのくらしを支える多機能的な取り組み
労働者協同組合ワーカーズコープちば 理事
らいふあっぷcollege就労準備支援責任者、らいふあっぷ習志野生活困窮者相談員 及川恵様

 労働者協同組合ワーカーズコープちば(千葉県船橋市)では、地域の必要に応えて地域福祉や職業訓練、生活困窮者自立支援などの事業をはじめ、子ども食堂やフードバンクなど様々な活動を行っています。今回はその中から、「フードバンクちば」(食)、「おとなりさん」(衣)、「らいふあっぷCollege」(居場所)の3つの活動についてご報告いただきました。

「フードバンクちば」では、県内47市町村の社会福祉協議会、県内の生協や県生協連等とともにフードドライブ(食品の回収)の活動をしています。また、生協と連携して食品の回収をしている中で、この活動に賛同する人たちが新たにフードバンクを設立するといった広がりも見せています。

 「おとなりさん」は、地域みんなで支え合うコミュニティ活動発信拠点をコンセプトに制服バンク、子ども食堂、フードバンクの拠点として活動していますが、制服バンクを始めたのは、子ども食堂で「制服は高いよね~」といったママ同士の他愛もない会話がキッカケということでした。そして制服バンクでは、制服の洗濯を地域の障がい者施設に委託するなど、仕事の切り出しをして地域に支えられた活動に発展しています。

 「らいふあっぷColege」は、就労のためのトレーニングが必要な人たちが利用者となって通う施設で、就労準備支援事業の運営主体である千葉県習志野市から委託を受けて事業を行っています。利用者が子ども食堂や商店街の飾りつけ等の地域活動をするなか、らいふあっぷCollegeのことを知った地域のママたちから不登校や引きこもりの相談が寄せられるようになり、そこで作ったのが「不登校ラボ アッタナラ」でした。そして、当初はお喋りの場の参加者だったママたちが、不登校児に関する映画の上映会や癒しのマルシェを企画・開催するなど、自らが活動の主体者となり、アッタナラが地域の活動を横につなぐハブとしての存在に発展していきました。

 そして、このフォーラムで報告することを通して「利用者の頑張りが確実に誰かに影響を及ぼすこと、そしてこのような社会連帯活動は連鎖しながら次の活動の担い手を作り、地域活動が広がっていくことを実感している」という言葉で報告を締めくくりました。

 

【クロストーク②】(敬称略)

斉藤ー厚生連の医療は「待っているのではなく出かけていく医療」であることを改めて認識した。学校を巻き込むのは簡単なようでとても難しいことだが、どのようにして始められたのか?

志村―教育委員会の人と養護教諭と厚生連職員が同窓・同期だったことが縁で始まった。厚生連では成人向けの健康教育をしていたのでそれほど敷居は高くなかった。

斉藤ー「うちの子どもが…」と最初に切り出すのは勇気がいることだと思うが、ママたちはどうやって言い出せたのか。また、「社会連帯活動は連鎖する」というお話しはとても良かったが、連鎖させるコツはあるのか?

及川―スタッフ全員が当事者(やその家族)なので共感できるし、それが話しやすさに繋がっていると思う。連鎖させる仕掛けは特にないが、とりあえず「みんなでやってみるか」「自分たちでやっちゃおう」という姿勢がキッカケになっているかもしれない。最初はボランティアで参加しているママさんが組合員になって様々な活動をするケースも多い。

クロストーク(左から順に、斉藤先生、志村様、及川様)

 

4.グループ交流・発表

 4団体からの事例報告等を踏まえ、フォーラムで印象に残ったこと、地域で新たに取り組みたいと感じたこと、県域や地域の場で情報交換の場をつくる可能性、の3点についてグループ交流を行いました。

 グループで話し合ったことについて、三重県・愛知県のグループから「どういう手法で地域の方と健康づくりやまちづくりを進めているのか情報共有できた」、東京都のグループから「『対等性』といいキーワードが上がった。協同組合の運営側が組合員と対等性を保ちながら活動していかなければならないと改めて認識した」、そして今回初めて設置した茨城のサテライト会場から「4つの事例を聞きながら、協同労働が地域住民を主体にしていること等を認識できた。出前授業をしている協同組合があることも知った。当県の連携組織を通じて、連携の取り組みをさらに進めていきたい」といった発表をいただきました。

 

5.閉会挨拶
愛知サテライト会場の向井忍様より閉会の挨拶

 今回初めて設置したサテライト会場のうち、愛知サテライト会場の向井忍様(特定非営利活動法人地域と協同の研究センター専務理事)から閉会の挨拶をいただきました。

 「身近な地域で話し合う場として、サテライト会場を設置したことは大変良かった。全国の貴重なお話を聞いて、地域にも取り入れていこうという場になった。斉藤先生のコーディネートで丁寧に学ぶことができ、またペストフ先生のメッセージで『専門職と利用者は対等である』とのお話をいただいた」「日本の協同組合は、もともと組合員の参加を大事にしている。ここに、さらに労働者協同組合法ができて働く人たちが中心になり地域課題を解決する土台ができた」「世界的に協同組合のアイデンティティの見直し議論が行われているが、日本では第7原則でいう地域社会への関与だけではなく、第6原則の協同組合間の協同を進めることで地域課題の解決にむけた取り組みに発展していると感じた。こうした日本の協同組合が持っている力を確認できる日になった。次回のフォーラムでは、より多くの地域で考える場を持ちたい」と、次回への期待も込めたご挨拶をいただき、閉会となりました。

 

 当機構では、これからも協同組合が地域共生社会づくりにさらに積極的に関わっていけるよう、相互の取り組みを学び、協同組合の役割について考え、協同組合間協同を推進する場の創出に取り組んでまいります。