〈ICAソウル大会レポートNo.1〉
ICAソウル大会がはじまりました(2021年12月1日)
コロナ禍の影響で1年延期されていたICAソウル大会が、12/1(水)開会しました。今回の大会はICA設立125周年を記念し、また採択して25周年を迎える「協同組合のアイデンティティ声明」を深めることをテーマとして、オンライン併用で開催されます。
【開会式】
初日の12月1日(水)は、プレイベントに続き、11:00(日本と韓国は時差はゼロ)より開会式が開催されました。
アリエル・グアルコICA会長の開会宣言に続き、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の挨拶、ホン・ナムギル副首相・企画財政部長官による韓国の社会的経済(協同組合や社会的企業)の現状やそれを促進する政府の施策、今後の方向について報告がありました。文大統領は、ロッチデールで始まった協同組合が今や韓国でも大きな存在となっており、組合員総数も31万人に達しており、これから社会的経済が重要になってくるなか、政府としても協同組合をサポートしていきたい、と述べました。
【全体会1:協同組合のアイデンティティを考える】
最初の全体会が「協同組合のアイデンティティを考える」をテーマに行われました。パク・ヨムボム氏(韓国農業食料地域部副長官)の基調講演では、韓国における農業の発展の中で、農協の果たしてきた経過や役割の大きさが具体的に示され、あらためて政府との協力関係の重要性も語られました。
これを受けてのラウンドテーブル1では、日本協同組合連携機構の特別研究員である栗本昭氏を含む5名のパネリスト(うち1名はオンライン参加)による討論が行われました。コーティネーターからの質問の中で、特に「協同組合を作るときの動機については?」に対し、栗本昭氏は「日本では1960年代、安全な食品を信頼できる生産者から、という女性たちの願いから生協がつくられ、発展した。2008年には中国製冷凍餃子事件で、生協は信頼の危機にさらされたが、なんとか回復し、現在も食の安全は特に大切なテーマとなっている」、韓国のパク・ヨムボム氏は「韓国の農家にとって農協は生き残るためにどうしても必要だった」、ケニアのヒルダ・オジャル氏は「ジンバブエの若者が、極めて電力事情の悪い地域で自ら発電するため太陽光発電を始めるとき、協同組合を作った。資金調達だけでなく、ともに所有する、特定の者がインフラを独占しない、という考え方が重要だった」、カナダのジョン・ヒューストン氏は「北極圏は寒く住みたい人は少ないが、資源は豊富でこちらは欲しい人が多い。イヌイットは生活のため猟をし毛皮も取るが、これが高級ブランド品となりイヌイットの手取りの2千倍で売られている。協同組合をつくり利用することで、資源を一部の大会社だけのものにしないことができるようになった」と発言しました。また、アルゼンチンのエクトール・ヤケット氏からは、事前収録された動画で「生協は公正な価格で販売するので、私は気づいた時から魅力を感じていた。今は、協同組合に働く一人として、環境問題やディーセントワークや健康な食品などのテーマにおいて、協同組合のアイデンティティを自らのものにしているか、を日々問うている」というメッセージがありました。
【分科会1:・・・を通じて、協同組合のアイデンティティを考える】
午後は、「・・・を通じて、協同組合のアイデンティティを考える」を共通テーマに、5つの分科会が開催されました。5つの分科会ではそれぞれ、
1.1「強い協同組合ブランドを通じて、協同組合のアイデンティティを考える」
1.2「包摂的なガバナンスを通じて、協同組合のアイデンティティを考える」
1.3「教育の機会を通じて、協同組合のアイデンティティを考える」
1.4「協同組合の文化と文化遺産保護を通じて、協同組合のアイデンティティを考える」
1.5「政府とのパートナーシップを通じて、協同組合のアイデンティティを考える」
をテーマにディスカッションが行われました。
日本語通訳がついた分科会1.1では、ニュージーランドの「協同組合ビジネス」理事長、アメリカの「サビー協同組合」理事長、イギリスの「ミッドカウンティーズ生協グループ」理事長、カナダの「ケベック協同組合会議」広報部長、「メキシコ庶民金庫」広報部長、の各パネリストから報告がありました。
多くのパネリストが「.coop」(ドットコープドメイン)やコープブランド統一・ロゴ統一など取り組みを報告しました。アメリカで患者が組合員となって設立したヘルスケア分野の協同組合「サビー協同組合」理事長からは、患者は受け身の存在ではない、という考え方は以前から持っていたが、5年前に協同組合という考え方を知り、当時学者だったが思い切って協同組合を設立したこと、その際、新しい分野だったこともありなかなか認知が広まらなかったが「.coop」(ドットコープドメイン)をつけたことで私たちは協同組合であることが理解してもらいやすくなったこと、ファイザーなどの大企業からもこの協同組合を通すと患者のしっかりした声が聴けるということで頼りにされるようになったこと、などの報告がありました。
【全体会:分科会1から何が浮かび上がったか?各分科会報告者インタビュー】
分科会後の全体会では、各分科会からの報告が行われました。
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- 分科会1からは、「.coop」(ドットコープドメイン)やマーク・ロゴを活用することがアイデンティティを発信する上で有効であること
- 分科会2からは、今の協同組合においてはガバナンスがより包摂的であることが求められるようになってきていること
- 分科会3からは、アカデミックな内容だけではなく、協同組合は生活のスキルであり生きた技能、実践が大切なので、高校以前からのカリキュラムも重要であること
- 分科会4からは、ユネスコによる無形文化遺産登録を受けたが、まだ私たちはこの意義をとらえきれていないのではないか、などの議論が今この時間も続いていること
- 分科会5からは、途上国などでは設立時など政府の関与が欠かせないが、ただし過剰な関与・介入・コントロールとならないよう考えなければならないこと
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などが報告されました。
【ILO事務局長挨拶:仕事の未来にとっての協同組合のアイデンティティの重要性】
初日の最後に、ガイ・ライダーILO事務局長がオンラインで挨拶しました。事務局長からは、ICAとILOは100年にわたって大切なパートナー関係にあり、今後も協力していきたいこと、ILOは来年6月の総会で社会的連帯経済について一般討議を行うがこのことは協同組合のアイデンティティとの関係でも重要な意味を持つので、今後も積極的に意見交換していきたいこと、などが述べられました。
以上(文責:JCA事務局)
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